変形性膝関節症は再生医療によって改善するのか?【再生医療の効果や種類まで解説】
近年注目されている「再生医療」。みなさんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。この再生医療は、膝の痛みの原因である変形性膝関節症にも適応になります。この記事を読めば、膝の再生医療とはどのような治療なのかを理解できます。ぜひ最後まで読んでみてください。
再生医療とは
私たちの身体には、怪我や病気を自ら治そうとする、自然治癒力が備わっています。転んで膝を擦りむいても、自然と血が止まってかさぶたができ、後に表面の皮膚細胞はもとどおりになります。この自然治癒力を利用したのが再生医療です。
再生医療は、自分自身の血液や組織から有効物質を抽出し、それを損傷した部位に補うことで、症状の改善を狙う治療法です。有効物質とは血小板や幹細胞のことを指しており、これらが損傷した組織の修復に働きます。症状の緩和だけでなく、完全治癒も期待できる画期的な治療です。
スポーツの場で使われてきた再生医療
スポーツ選手にとって怪我は選手人生に大きく関わります。従来の治療法では、どんな治療を行ってもその後必ず安静期間があります。一般的に組織の修復、治癒には数週間から数ヶ月かかるため、その間はスポーツを行えません。スポーツ選手にとってブランクは大敵であり、1日でも早い復帰を求められます。
しかし、再生医療は従来の治療法とはまったく異なります。治療後の安静期間が短縮できるだけでなく、本来なら手術が必要な場合にも、再生治療のみで治癒を目指せます。スポーツへの復帰が早いだけでなく、手術の後遺症も回避できるため、スポーツ選手にとって画期的な治療法なのです。実際に、メジャーリーグで活躍中の大谷翔平選手も、肘の再生医療を受けています。
近年、再生医療はその治療効果と安全性から、スポーツ業界だけでなく一般の方へ普及しています。特に、治療法として普及している疾患のひとつが変形性膝関節症です。従来の治療法では痛みが改善されない人や、手術を受けたくない人にとって画期的な選択肢になっています。
再生医療が向いている人の特徴
では、再生医療が向いている人の特徴には、どのようなものがあるのでしょうか。
詳しく見てみましょう。
ヒアルロン酸注射では効果が無かった
従来の治療法として、膝関節内にヒアルロン酸を注射する方法があります。ヒアルロン酸は関節液の成分で、これを注射することにより膝関節を保護する効果があります。しかし、ヒアルロン酸は膝関節内に定着するわけではないため、定期的な注射が必要です。そしてヒアルロン酸注射を行っていても、変形性膝関節症は徐々に悪化します。膝関節の再生医療は、ヒアルロン酸注射に代替する方法として、痛みの緩和などの効果を発揮します。
手術ができない
変形性膝関節症の手術には、人工関節置換術があります。しかし、患者さんの状態によっては、手術が適応できないことがあります。たとえば、下記のような患者さんは手術を行えません。
- 薬剤アレルギー
- 骨粗鬆症で骨の強度が弱い
- 関節の神経に損傷がある
- 関節リウマチによる皮膚病変がある
- 人工関節を支えられる強度がない
これらに当てはまる、かつ医師から手術の許可が降りなければ、人工関節置換術後は受けられません。
一方で、再生医療では、手術ができない方にも適応できる可能性が非常に高いです。また自身の血液を使っておこなう治療のため、副作用やアレルギーのリスクが低いのも特徴です。
できるだけ人工関節を避けたい
人工関節置換術は、炎症や摩擦、壊死によって損傷した膝関節を、人工関節に置き替える手術です。膝関節内にある太ももの骨と、脛の骨を削り、金属とポリエチレンでできた人工関節を挿入します。手術後は痛みから解放され、再び歩けるようになりますが、多くの場合治療後は健康だった時と同じように膝を深く曲げたり、ジャンプしたりといったことはできません。このため、スポーツ選手や仕事上膝の曲げ伸ばしが必要な人には、生活上の制限が生まれてしまいます。
再生医療を適用することで、人工関節で発生する日常生活への支障を避けられます。
変形性膝関節症における再生医療の種類
では、変形性膝関節症の再生医療にはどのようなものがあるのか、解説していきます。
PRP療法
PRP療法とは、自己多血小板血漿注入療法のことを言います。簡単に説明すると、自分の血液から血小板を取り出し、その血小板を膝関節に注射する治療法です。血小板に含まれる成長因子によって、膝関節の炎症を抑え、痛みの軽減が期待できます。
変形性膝関節症はPRP療法の対象になります。変形性膝関節症は病状の進行に伴って、軟骨がすり減る、半月板が削れる、炎症が起きることで膝に水が溜まる、といった症状がでます。これらの症状によって膝の痛み、膝の変形などが引き起こされるのです。PRP療法は、血小板が膝の炎症を抑えたり、組織の回復を促す効果が期待できます。
血小板は血液に含まれており、血が出たときに血を止めたり、傷を治したりする働きをしています。この血小板の、自分で自分を治す自己治癒力を利用し、傷ついた膝関節の組織を修復するのがPRP治療です。
PRP治療の具体的な治療の流れは下記の通りです。
PRP治療の方法
- PRP治療が適しているのか、医師の診察を受けます。
- 血液を20mLほど採取します。
- 遠心分離機にかけ、血小板だけを抽出します。
- 膝に血小板を注入します。日帰り治療です。
APS療法
APS療法は、次世代のPRP療法とも言われ、その効果に期待が高まっている治療法です。PRP療法は主に、筋肉・靭・腱などの組織を修復を促すことが期待されています。一方、APS療法は、主に膝関節の症状に特化した特徴があります。APS(Autologous Protein Solution:自己タンパク質溶液)はPRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)から、さらに抗炎症成分など膝関節に対して有効な物質を抽出したものです。この抗炎症作用を持つAPSが、膝関節内の炎症性タンパク質を抑制することで、炎症が抑えられ、痛みの軽減につながります。欧州での実験データでは、中程度までの変形性膝関節症の患者にAPS療法を実施し、最大で24ヶ月の効果を得られたと言います。
APS療法の治療の流れは下記の通りです。
APS療法の方法
- APS療法が適しているのか、医師の診察を受けます。
- 当日来院し50mLほど採血をします。
- 血液を遠心分離機にかけ、PRP(多血小板血漿)を採取します。(約30分)
- PRP(多血小板血漿)からAPS(自己タンパク質溶液)を採取します。(約10分)
- 痛みのある膝関節にAPSを注射します。日帰り治療となります。
PRP-FD療法
PRP–FD療法(血小板由来因子濃縮物-フリーズドライ化)とは、PRP療法に使う多血小板血漿をさらに高濃度にしたものです。傷を修復する成長成分が、一般的なPRP療法に比べて約2倍含まれており、さらなる自己修復能力と、痛みや機能改善が期待されます。
PRP–FD療法の特徴として、PRP療法よりも注射後の痛みが少ないことがあります。そして、PRP–FDは多血小板血漿をフリーズドライ化させるため、6ヶ月間の保存が可能です。
PRP–FD療法の治療の流れは下記の通りです。
PRP–FD療法の流れ
- 医師による問診、診察を受けます。
- 約50mL採血します。
- 血液検査(HBV,HCV,HIV,梅毒,HTLV-1の有無を確認)を行います。ここで陽性反応があると、PRP–FD療法は受けられません。
- PRP–FDを抽出します。(約6週間かかります)
- PRP–FDを注射します。
- 作成したPRP–FDは6ヶ月間保存されます。
再生医療の費用について
再生医療はその効果と安全性が認められていますが、まだ保険適応されていません。そのため、費用は全額自己負担になります。医療機関によりますが、膝の再生医療の治療費は、1回につき30万円前後が相場です。再生医療を検討している方は、近くの再生医療を取り扱っている医療機関に問い合わせてみるのが良いでしょう。
まとめ
本記事では、変形性膝関節症に悩まれる方への新しい選択肢として注目される、再生医療について解説しました。
再生医療はもともとスポーツ業界での治療に利用されてきましたが、現在はその効果と安全性から、一般の方への普及が進んでいます。できるだけ手術を避けたい方や、人工関節の手術が適応にならない方への選択肢として、再生医療は選ばれています。
膝の再生医療には、APS療法、PRP–FD療法、PRP–FD療法がありますが、いずれも採血を行い、ご自身の血液中の有効成分を痛みのある膝に注射する方法です。日帰り治療であること、自身の血液を使っているため副作用がほとんどないことが大きなメリットです。
膝の再生医療に興味がある方は、一度専門病院を受診して医師に相談してみてはいかがでしょうか。
膝関節の再生医療|PRP-FD療法と効果【メリット・デメリット】
また、梅本ホームクリニックでは、電話による無料相談を受け付けています。「変形性膝関節症に悩まされている」「手術は難しいが、最先端医療で症状を緩和させたい」このような方は、お気軽にご相談ください。