認知症って遺伝するの?|遺伝子の検査方法やリスクを軽減させる方法を解説
家族の中に認知症の人がいると気になるのが、「認知症は遺伝するのか」という問題です。認知症の原因はまだはっきりと解明されていませんが、遺伝や環境、生活習慣などさまざまな要因が絡み合って発症すると言われています。
この記事では、認知症が遺伝するのかどうかについて解説します。発症リスクを減らす予防法についても紹介しますので、認知症の家族がいて不安な場合は、ぜひ参考にしてください。
認知症の発症リスクは遺伝する?
そもそも、認知症の発症リスクは遺伝するのでしょうか。まずは、認知症と遺伝の関連性について見ていきましょう。
認知症はまれに遺伝する
科学的な根拠はまだ解明されていませんが、血縁関係者に認知症患者がいる場合、認知症の発症リスクが高まることは医学界ではよく見られるケースです。また、一卵性双生胎(双子)の場合も、同じ疾患に罹患する頻度が高い傾向にあることがわかっています。
ただし、認知症の発症には遺伝的な要因だけではなく、生活習慣による影響もあると考えられています。家族で同じような食事をとったり喫煙したりして同じ生活習慣病に罹患している場合、それが要因となって認知症を引き起こす恐れがあるのです。
現時点では、単純な遺伝のみで認知症の発症リスクが大幅に高まることは報告されていません。もちろん、認知症の発症を防ぐために対策を取ることは大切ですが、過度に発症について心配する必要はないでしょう。
遺伝性の「家族性アルツハイマー型認知症」がある
認知症が遺伝するのは非常にまれなケースですが、認知症の中でもっとも多いとされているアルツハイマー病は、発症しやすい体質が遺伝する可能性があることがわかっています。
アルツハイマー病は、タンパク質が異常凝集され、神経細胞の働きが阻害されて脳が変性することで引き起こされます。「アポリポタンパクE(APOE)」という遺伝子で特定の型を持つ人は、このアルツハイマー病を発症しやすく、発症年齢も若くなりやすい傾向があるのです。これを、「家族性アルツハイマー型認知症」と言います。
ただし、アポリポタンパクE(APOE)を持っていても発症しない人も多いですし、この遺伝子がなくてもアルツハイマー病を発症する人も多いです。認知症はさまざまな要因によって引き起こされるもので、遺伝による発症あくまでひとつの可能性でしかないことを理解しておくことが大切です。
家族性アルツハイマーについて
この章では、前項で紹介した家族性アルツハイマー型認知症についてさらに詳しく紹介します。特徴と発症のプロセスを知っておくと、万が一の場合に備えられるでしょう。
家族性アルツハイマー型認知症の特徴
家族にアルツハイマー病の人がいる場合、それが遺伝性のものであるのかそうでないのかを知ることが非常に重要となってきます。家族性アルツハイマー型認知症かどうかを見分けるときは、この疾患ならではの特徴を知っておくことが大切です。家族性アルツハイマー型認知症の特徴、それは「発症年齢」です。
通常、アルツハイマー病は70~80歳の高齢者に発症することが多い疾患として知られています。しかし、家族性アルツハイマー型認知症は一般的なケースよりも20年以上早く発症することが多く、40~50歳で症状が発現します。
たとえ、祖母と母親がアルツハイマー病に罹患したとしても、一般的に多いと言われている70歳を過ぎてからの発症である場合、家族性アルツハイマー型認知症である可能性は低いでしょう。
もちろん、発症年齢だけでは判断できません。しかし、家族性アルツハイマー型認知症かどうかを見極めたいときは、ぜひこの疾患の特徴である「発症年齢」をひとつの判断基準にしてみてください。
家族性アルツハイマー型認知症のプロセス
家族性アルツハイマー型認知症を発症する人は、以下のプロセスを踏むと言われています。
- 脳に老人斑と呼ばれるシミができる
- 進行するに従って脳細胞が死滅する
- 脳全体が萎縮する
上記のプロセスは、「アミロイドβペプチド」という老廃物が脳に蓄積され、神経細胞の働きが阻害されることで引き起こされます。
そのため、40~50歳で認知症のような症状が発現し、検査で上記のようなプロセスが確認された場合は、家族性アルツハイマー型認知症である可能性が高いのです。
アルツハイマー型認知症に関わる検査について
家族が認知症を発症している人の多くは、自分にアルツハイマー型認知症のリスクがあるかどうかを判断したいと考えているかもしれません。そんなときは遺伝子検査を受けることによって、危険因子となる遺伝子を持っているかどうかを判断できます。ここからは、アルツハイマー型認知症に関わる検査について紹介します。
APOE遺伝子検査について
家族性アルツハイマー型認知症が遺伝しているかどうかは、「APOE遺伝子検査」という検査で判定が可能です。
家族性アルツハイマー型認知症を引き起こすとされている「アポリポタンパクE(APOE)」には、おもに「ε2」「ε3」「ε4」の3種類があります。このうち、「ε4」の遺伝子を持っているとアルツハイマー病の発症リスクが高くなると言われています。
APOE遺伝子検査ではこの遺伝子の型を調べ、アルツハイマー病の発症確率を評価できるのです。
APOE遺伝子検査を受ける方法
APOE遺伝子検査は、認知症検査を行っている病院で受けることが可能です。病院によっては検査の実施がないところもあるため、事前に問い合わせてから受診することをおすすめします。
検査方法は非常に簡単で、血液を約5ml採取するのみです。検査結果は2~3週間以内に出ることが多いです。
保険適用はある?
APOE遺伝子検査は、残念ながら保険の適用外となる検査です。そのため、自費で検査を受ける必要があります。なお、検査費用は病院によってさまざまです。15,000円~25,000円程度が費用の相場となります。
生活習慣で発症リスクを減らせます
家族に認知症の人がいたり、APOE遺伝子検査をして結果が良くなかったりすると、気持ちが焦ってしまうかもしれません。しかし何度も説明している通り、認知症はさまざまな要因が複雑に絡まって発症する疾患です。そのため、遺伝や遺伝子だけで発症すると決めつけてしまうことは非常に危険なのです。
認知症のうち、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症は、脳血管障害や糖尿病といった生活習慣病と深い関わりがあると言われています。そのため、生活習慣を見直すことで、生活習慣病の予防ができるため、結果的に認知症の予防に繋がります。
そこで、ここからは認知症の発症リスクを低減できる生活習慣について紹介します。もしも認知症の発症リスクに不安を抱えているのであれば、ぜひ実践可能な方法から取り入れてみてください。
バランスの取れた食事
認知症を予防したいのであれば、脳の健康を維持しましょう。脳の細胞は食事から摂取する栄養で作られるため、バランスの取れた食事が認知症予防には効果的です。
まずは、タンパク質や脂質、炭水化物やミネラル、ビタミンといった基本の栄養素をしっかりと摂取しましょう。また、魚油に含まれるEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸も意識的に摂取してください。特定の栄養素をたくさん摂るのではなく、バランスよくさまざまな食材を摂取することが大切です。
特に、下記のような食材が認知症予防には有効だとされています。
- 魚類
- 緑黄色野菜
- 豆類
- 果実類
- カレー
- 緑茶
- コーヒー
- 赤ワイン
ほかにも下記のようなポイントに注意すると、認知症リスクを低減させられます。
- できるだけ塩分を控える
- 摂取カロリーの基準値を守る
- 間食を控える
- 甘いお菓子や炭水化物など糖分を多く含む食事を控える
- 肉の脂身やマーガリン、ショートニングを避ける
食事は脳や体の状態に直結するものだと意識して、なるべくバランスよく体にいい食材を食べましょう。
十分な睡眠時間
認知症の発症リスクを低減させたいのであれば、十分な睡眠の確保も大切です。発症数がもっとも多いアルツハイマー型認知症は、「アミロイドβ」というタンパク質が集まって脳細胞を破壊することで引き起こされます。
このアミロイドβは私たちの活動中に発生する老廃物のひとつですが、脳と体が眠っている「ノンレム睡眠」の際に脳内から排出されます。そのため、十分な睡眠を取ることでアルツハイマー型認知症の発症因子を減らせます。
最適な睡眠時間は人によって異なりますが、6時間半~8時間程度の睡眠時間の確保を心がけましょう。十分な睡眠は肥満や生活習慣病、精神疾患などのリスクも低減してくれるため、健康を維持したい人はぜひ意識してみてください。
有酸素運動
有酸素運動も、認知症の発症リスク低減には欠かせません。近年の研究により、適度な運動は脳神経と体の機能を改善し、認知症予防効果を発揮してくれることがわかりました。
これは、運動をすると脳から筋肉に信号が送られ、筋肉から出た信号が脳に伝わることで、脳細胞が活性化されるためです。その結果、神経を成長させる作用がある「BDNF(脳由来神経栄養因子)」というタンパク質が海馬で分泌され、記憶機能を維持してくれるのです。
また、有酸素運動は体の血流を促進してくれるため、アルツハイマー型認知症に起こりがちな脳の血流低下を防ぐ効果もあります。運動で脳に十分な血流と酸素、栄養を送ってあげられれば、健康な状態が維持できて認知症の発症リスクを低減できます。
発症の疑いがある場合は早めに受診しましょう
認知症のうち、「家族性アルツハイマー型認知症」は遺伝する可能性がある疾患です。遺伝子検査で認知症の発症リスクは判定できるため、気になるのであれば一度医療機関に相談してみてもいいでしょう。
ただし認知症が遺伝することはまれですし、危険因子を持っていなくても認知症を発症するケースは非常に多いです。「自分や家族は遺伝していないから大丈夫」と考えるのではなく、心配な症状や発症の疑いがある場合は早めに医療機関を受診し、しっかりと検査を受けることを推奨します。
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