うつ病でも認知機能は低下する!認知症との違いと回復のための治療法を紹介
うつ病になると、気分の落ち込みだけではなく、物忘れや判断力の低下などの症状が生じることがあります。こういったうつ病の認知機能の低下は認知症と間違われやすく、間違った自己判断を引き起こす危険性があるため注意が必要です。
この記事では、うつ病による認知機能の低下と認知症との違い、治療法について紹介します。うつ病と認知症の見分け方を理解して、認知機能の低下に対して適切な治療を行えるよう、知識を深めておきましょう。
うつ病と認知症の違い
高齢になると認知症とともに、気分の落ち込みや意欲の低下を引き起こすうつ病の発祥リスクが高まります。どちらの疾患も認知機能や判断力の低下が症状として現れるため、「うつ病だと思っていたら認知症だった」と間違った判断を招き、早期治療の機会を逃してしまうケースも少なくはありません。
それでは、うつ病と認知症を見分けるときはどのようなポイントに気をつければいいのでしょうか。まずは、うつ病と認知症の違いについて詳しく見ていきましょう。
うつ病の症状
うつ病の症状の特徴は、新しい物事を覚える「記銘力」が低下する点です。
- 本を読んでも内容が頭に入ってこない
- 買い物を頼んだのに忘れてしまう
- 仕事の打ち合わせ内容がいつも抜けている
上記のように、うつ病では見聞きしたものが頭に入ってこなくて忘れてしまうことが多い傾向にあります。
また、気分の落ち込みが強い点も認知症との大きな違いです。悲観的になり、抑うつ感によって食欲の減退や睡眠不足に悩まされることもあります。
うつ病による認知機能の低下にはたいてい自覚症状があり、「最近物事を忘れてしまう」「死にたくなってしまう」などといった気持ちをご家族に話すことも少なくはありません。ほかにも、注意力が散漫になったり判断力が落ちたりする症状が出ますが、いずれにせよ本人はその症状を自覚しており、不安感を抱く傾向にあります。
鬱病による認知機能の低下である場合、抗うつ剤を服用することによって徐々に認知機能が改善します。
認知症の症状
認知症の症状の特徴は、物事の記憶そのものが丸ごと抜け落ちてしまう点です。
- 食べたものだけではなく、食事したこと自体を忘れてしまう
- 買い物を頼まれたこと自体を忘れてしまう
- 仕事のやり方自体がわからなくなってしまう
認知症の場合、こういった症状がいきなり現れるわけではなく、少しずつ進行していきます。発祥初期の段階で認知機能の低下を自覚して不安を訴えることはありますが、進行すると自覚症状が薄れていき、不安や気分の落ち込みなどを抱きにくくなる傾向にあります。
物忘れはうつ病でも起こることがある
上記で紹介したように、認知機能の低下による物忘れは、認知症だけではなくうつ病でも起こることがあります。これは、ストレスなどによって一時的に脳機能が低下することが原因で引き起こされる物忘れで、年齢を問わずに起こり得る症状です。
ほかにも、適応障害や不安障害などといったさまざまな精神疾患で物忘れは起きます。先述したように、うつ病などで引き起こされる物忘れは、自覚症状と気分の落ち込みをともないますので、この2点を見分けるときの判断基準にするといいでしょう。
せん妄でも物忘れが起こる
せん妄とは、高齢者に見られることが多い意識障害です。突然時間や場所がわからなくなる「見当識障害」から生じることが多く、ほかにも以下のような症状を引き起こします。
睡眠・覚醒リズム障害:不眠、昼夜逆転、意識が曖昧になる
幻覚・妄想:実際にはいない虫が見える、恐ろしい幻覚や間違った記憶が生じる
情動や気分の障害:イライラや錯乱、興奮や不安感など、感情と人格の変化
神経症状:手の震え など
こういったせん妄の症状は、脳卒中や脳炎などの疾患や加齢、薬の副作用や強いストレスによって引き起こされます。たとえ症状が現れても、適切に治療をすれば数日以内に改善します。
ただし、認知症の症状としてせん妄が併存することもあるため、見分けるためには医師の診断が欠かせません。せん妄は適切に処置を行わないと昏睡や死のリスクがあるため、少しでも違和感を覚えたら早めに診察してもらうことをおすすめします。
仮性認知症とは
仮性認知症とは、精神的なショックや血管のつまりによる虚血状態で一時的に認知機能が低下し、認知症のような症状を引き起こしている状態を指します。適切に治療を行うためには、仮性認知症と認知症の違いについて理解することが欠かせません。
この章では、仮性認知症について解説します。
仮性認知症と認知症の違い
仮性認知症と認知症には、多くの違いがあります。それぞれの特徴を表にまとめたので、しっかりと区別しておきましょう。
仮性認知症 | 特徴 | 認知症 |
---|---|---|
急激に発症するため、タイミングを特定しやすい | 発症するタイミング | 徐々に発症・進行するため、タイミングを特定しにくい |
精神疾患の既往歴があるケースが多い | 既往歴 | とくになし |
気分や意欲の低下 | 初期症状 | 物忘れ |
同程度の症状が持続する | 経過 | 徐々に進行する |
深刻に捉える傾向にある | 認知機能障害への対応 | 自覚症状がない傾向にある |
短期・長期記憶障害が同程度 | 記憶障害 | 短期記憶の障害が重い |
受け答えの遅延 | 言語障害 | 失名詞が多い |
抑うつ感、不安感 | 感情障害 | 抑うつ感や不穏、感情鈍麻や暴言などさまざま |
心気妄想、貧困妄想、罪業妄想など | 妄想所見 | 物盗られ妄想、嫉妬妄想、誤認性妄想など |
不振、拒食 | 食欲 | 異常なし、過食 |
不眠、早期覚醒 | 睡眠障害 | 昼夜逆転 |
有効 | 抗うつ薬治療 | 無効 |
異常なし | 脳画像所見 | 異常あり |
仮性認知症の場合は、明らかに気分の落ち込みや思考力・行動力の低下が見られます。対して認知症は、気分が落ち込むというよりは、徘徊や暴言が増えたりして活動的になる傾向にあります。
また、認知症は脳画像診断で異常が見つかりますが、仮性認知症は脳画像では異変が見られません。仮性認知症か認知症かを見分けるためには、脳画像診断が非常に有効です。仮性認知症の場合は、明らかに気分の落ち込みや思考力・行動力の低下が見られます。対して認知症は、気分が落ち込むというよりは、徘徊や暴言が増えたりして活動的になる傾向にあります。
うつ病性仮性認知症とは
仮性認知症は、別名「うつ病性仮性認知症」とも呼ばれることがあります。これは、文字通りうつ病によって認知機能や判断力、注意力や集中力が低下する状態のことです。いつもどおり生活していた人がいきなり認知症のような状態になってしまうので、高齢者の場合は認知症と見分けることが難しいとされています。
うつ病仮性認知症は、長期にわたるストレスや欲求不満、脳血管のつまりによって脳の機能や血流の低下が原因で引き起こされることが多いです。脳が虚血状態になって正常な働きができなくなることで症状が現れるため、脳血流検査で発覚することも少なくはありません。
うつ病仮性認知症の場合は、通常うつ病と同様に抗うつ剤やカウンセリングなどを用いて治療していきます。多くの場合、うつ病の症状とともに仮性認知症も改善します。
認知機能が低下したと感じる場合の治療法
認知症だけではなく、うつ病や仮性認知症によっても引き起こされる「認知機能の低下」。もしも認知機能の低下に気づいたときは、どのように治療を行えばいいのでしょうか。
最後に、認知機能の低下に気づいたときに行ってほしい治療法について紹介します。
まずは医療機関で診察をしてもらう
認知機能の低下に気づいたら、何よりも先に医療機関で診察してもらうことをおすすめします。
もちろん、うつ病の症状として認知機能の低下が起きているときも早期治療が欠かせません。しかしそれ以上に、認知症やせん妄による認知機能の低下が起きている場合、症状の進行を防いだり命を守ったりするためには早期治療が必要なのです。
物忘れや認知機能脳低下を軽く捉えて自己判断せず、必ず専門家による診察を受けるようにしましょう。
うつ病の場合はカウンセリングを検討する
医療機関で診断してもらってうつ病による認知機能の低下が判明した場合は、薬物療法だけではなくカウンセリングによる治療も行いましょう。薬物治療を行えば脳神経が修復されて2週間ほどで症状は軽減しますが、うつ病になりやすい物事の捉え方や考え方、ストレスの原因を取り除かない限りは、再発してしまうリスクがあります。
カウンセリングでは、こういった考え方のクセを直したり、ストレスを緩和するための対処法を学んだりすることが可能です。今後の生活のためにも、カウンセリングでうつの原因を根本から改善することを推奨します。
セルフケアを怠らない
うつ病やストレスなどで認知機能が低下しているときは、セルフケアを行うことが欠かせません。セルフケアとは、趣味に没頭したりストレスを発散したりするために気晴らしすることを指します。
好きな読書を楽しんでもいいですし、贅沢にお酒や食事を嗜んでもいいでしょう。ポイントは、体を動したり頭を使ったり感性を刺激したりと、さまざまな方向性からセルフケアをすることです。気持ちがリフレッシュできるだけではなく、脳の活性化を促して認知機能の改善を目指せます。
周りにいる家族も親身にサポートする
認知機能の低下やせん妄などの症状により日常生活に支障をきたす場合は、周りにいる家族の親身なサポートが大切になります。「突然見当識がなくなる恐れがある」「意識が朦朧とすることがある」といったリスクを念頭に置いて見守ってあげると、万が一のときも素早く対処ができます。
あまりにも症状がひどいときは、医師にしっかりと相談して対処法や治療法を提案してもらいましょう。
症状があることをストレスに感じすぎないようにする
認知機能の低下は、本人にとって大きなストレスになります。しかし、症状を過度に意識してしまうと、気分の落ち込みを悪化させたり意欲の低下を招いたりします。そのため、症状にストレスを感じすぎないようにすることが大切なのです。
物忘れが気になる場合は、メモや手帳を持ち歩いて記録に残すことが有効です。忘れてもすぐに確認できるようになるため、物忘れによる自責の念を軽減できます。
そもそも、年齢を重ねれば忘れっぽくなるのは当然のことです。重大な病気が見つかったときはもちろん治療が必要ですが、そうでない場合は「仕方のないこと」だと気楽に捉え、家族とサポートし合いながら過ごすことを心がけましょう。
自覚症状や不安がある場合は医療機関へ
認知機能の低下は、認知症だけではなくうつ病によっても引き起こされることがあります。原因によって症状の特徴は異なりますが、一般の人が自己判断することは危険なので、不安がある場合はすぐに医療機関を受診しましょう。
梅本ホームクリニックは、認知症やうつ病、せん妄などの精神疾患の診療を専門としています。認知機能について少しでも気になる点がある場合は、お気軽に電話からご相談ください。
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